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わたしはなによりこの曲が好きなのです。
はじめて自分で最初から最後までプレイしたドラクエがⅧだったので、かなり思い入れがあるということと、レティスの背中に乗ってラスボス「ラプソーン」に挑む展開、ラーミアの曲が戦闘用にアレンジされているという計り知れない衝撃と感動がずっとずっと心のなかで波打っている、揺らめいている。
原曲の良さを絶対に損なうことなくファミコン音源で表現したい。その気持ちがコンパスの針になって、ぐるぐると円を描きはじめたのでした。
とはいえ実際にPS2版の原曲を聴いて採譜作業にとりかかると、これがもう、ものすごく大変。
ファミコンは同時発音数がたった3音(+ノイズ)であり、音色もパルス波と三角波という2種類に限られる。制約がほとんどないPS2の音源を、制約ありまくりのファミコン音源に集約させていくのはとても悩ましい作業なのでした。
以下、工夫した点をあげてみました(細かいところまでいうと、ほかにもいろいろあります)。
工夫した点
- 三連符を1ch2ch交互に鳴らす(1:47〜)
→DQ3 おおぞらをとぶ などで使われている技法
ファミコンはひとつのchで同時に2音以上鳴らすことができません。ピアノでサスティンペダルを踏むように前の音を残して次の音を出すための工夫です。ひとつのchで三連符を演奏するほうがはるかに簡単ですが、この曲の元である「おおぞらをとぶ」を意識して取り入れました。 - 4音の和音を表現したい箇所はトレモロで演奏(1:03〜)
→DQ4 エンディング曲などで使われている技法
原曲の和音の響きを崩したくなかったので、同時発音数3音で4つの音を聴かせるファミコンならではの工夫を取り入れました。 - 1ch2ch音色duty比50%固定、アタック部分をゆるやかに
→DQ3ゾーマ戦をイメージ
音色は迷うところですが、ドラクエ8は物語のなかでドラクエ3とのつながりが示唆されるため、3のラスボス戦と同じ音色にしました。 - パーカッションパートはノイズのみ使用。出番多め。
→ファミコン版ドラクエでは5ch DPCMは使用されていないため。
本来ファミコン版のドラクエは4chの出番が少ないのですが、PS2版の原曲はドラムセットの音が効いているので、ファミコンに寄せていくかドラムを残すか、ここもけっこう迷うポイントでした。結果的に、やはり原曲重視という観点から4chを躍動させることにしました。
ファミコン音源アレンジは人生初の試みでしたが、実際にやってみると当時の作曲家やサウンドプログラマーの方々のすばらしさが、よりはっきりとした輪郭になって感じられました。並々ならぬ工夫を重ねて音楽をつくりあげていたのだなあと、しみじみ思います。本当に尊敬します。すごすぎる。
できないことが多いからこそ、できることを捻出するパワーが生まれるのかもしれないね。そしてそこに、美しいアートが見えてくるような気がします。
すこし脱線するのだけれども、ファミコンの音の成り立ちとか制約とか、わたしは知識を多少なりとも身につけたからこそ、内在する美しさに気づいたわけで、なにも知らないままだったらいわゆる一元化された「ピコピコ音」でしかなかったのですね。で、それはありとあらゆることに言えて、“知らない”というのは非常にもったいないことであり、だれか/なにかにたいして寛容になれない一因であると思うのです。
すべての事象を理解するのは不可能だし、むりやりにでも興味をもつべき、とはまったく思わないけれども、”知る“ことは大事なのだと、ひしひしと感じているところであります。知識があれば武装なんて必要はないのだよ。
何の話ですか。
アレンジのこと
ところでアレンジといっていますが、音をつけ足したりリズムを変えたり、そういったことは一切していません。あくまでも原曲に忠実です。わたしはすぎやまこういちさんを神様だと思っているほど尊敬しています。すぎやまさんの曲が大好きです。
これは持論なのですが、わたしがピアノを演奏するときにもっとも大切にしていることは、その曲にたいする敬意を忘れないことです。演奏に独創性も必要だと思うけれど、偉大な作曲家のつくった音楽を自分のもののようにするのは違うと思っていて、その曲の良さを正確に伝えることが、演奏家のあるべき姿だと考えています。わたしの場合は単なる趣味にすぎないけれど、音楽を聴く側としてはそういう気持ちが表れているピアニストの音色が好きだし、自分が練習するときは常にそういう意識をもっていたいと思っています。だからこそ、今回のファミコン音源アレンジも、どうしたら原曲の良さをファミコン音源で再現できるかと考えて練り上げました。ファミコン音源にすることで、この曲のすばらしさが再発見できたら。そう思って取り組みました。
演奏のこと
さて、アレンジができたら次は演奏、となりますがあれですね。原曲リスペクトはもとより、なるべく「弾ける」アレンジを心がけたはずなのに、フタをあけてみると、なんとまあ弾けない。
手弾きで再現することが目標でありこだわりであるので、どうしても、なんとしても、弾きたい。弾くというか、操作するというか。実機演奏には、鍵盤を弾くだけでは完成しない、スイッチやスライダー操作などの独特な難しさがあるのです。
本来、ファミコン音楽は当然のことながら機械が演奏する前提でつくられています。だからこそ人間の限界を超えたテクニックが散りばめられ、たった3音とは思えない厚みや煌びやかさを演出できるのです。
打ち込みであれば、もっと工夫をもりもりにする余地があるかもしれない。けれどこの動画のポイントは「ファミコン実機で自ら演奏する」ことなので、その範囲でできることは最大限にやった、というところであります。おかげでてんてこまいでした。練習が修行のように感じられたよ。
動画には手元をアップにしたカットも織り交ぜました。操作の一部が見やすくなっていると思います。
というわけで、わたしの「好き」をめいっぱい詰め込んで完成させた、DQ8 おおおぞらに戦う ファミコン音源アレンジ演奏、ぜひぜひ耳を傾けていただければ嬉しいです。ファミコンの音の良さと原曲の良さを味わってみてください。