楽譜とか喫茶店とか東大とか

晴れ間も見えるけれど雲行きがあやしい、なんだかすっきりしない空模様。午後は雨の予報が出ている。お昼に行きつけの喫茶店でナポリタンを食べて、これからどうしようと迷ったけれど、数日前に決めていた予定のとおり、楽譜を買いに行くことにした。

水道橋駅から歩いて十数分、本郷にある輸入楽譜の専門店「アカデミア・ミュージック」に着いた。ピアノの先生に教えていただいたお店だ。なんとなく歩いていたら見過ごしてしまいそうな、控えめな佇まいのビル。2階に上がり扉をあける。広くはない店内、隅から隅まで棚が配置され、そのすべてにびっしりと楽譜が詰まっていた。品ぞろえはおよそ3万冊だそうだ。
わたしのお目当てはドビュッシーの「ベルガマスク組曲」。店員さんに楽譜の選び方を尋ねてみると、ドビュッシーなら古くから定番とされているのはフランスのデュラン版。ベーレンライター版とヘンレ版はドイツの出版社で、比較的新しい楽譜、とのことだった。ほかにも出版社ごとの特徴を丁寧に、親切に教えてくれた。かなりの知識量だ。

店員さんのお話しをもとに、それぞれの楽譜をじっくり見比べて、ベーレンライター版を購入した。解説がいちばん詳しく(ただし独英仏語で書かれていて、すらすら読むのは無理!)、さらに初版と思しき楽譜の校正が載っていて、そこには現在の楽譜では知ることができない、もともとあった数小節を削除した形跡が見られた。非常に興味深い内容だったため、ベーレンライター版を選ぶことにした。

わたしはすでに安川版を持っていて、これまでその楽譜で練習をしてきた。ところが、複数のピアニストの演奏を聴いていると明らかに音が違う箇所が出てくる。調べてみると、どうやらベルガマスク組曲はドビュッシーの自筆譜が発見されていないらしい。数冊の楽譜を確かめたら、やはり表記が異なっていた。そこでピアノの先生に相談し、輸入楽譜を扱っているアカデミア・ミュージックにたどり着いた、というわけである。

オリジナルが発見されていない以上、「正解」の演奏は難しい。けれど、一冊の楽譜に頼りきることなく、さまざまな楽譜に目をとおして、自分なりの解釈で演奏できたらと思う。
今回購入したベーレンライター版も、安川版とは音自体が違うところもあれば、単音が和音になっているようなところもある。これほど解釈の違いがあることに驚いたし奥深さを知ったし、ますますクラシック音楽はおもしろいなあと、文字にすると単純すぎるくらい単純に、そんなことを思ったりした。

ベーレンライター版
安川版

新しい楽譜を買って、それから、ほくほくな気分で東大まで散歩をしてみた。
赤門のすぐ近くに喫茶店があり、それはそれはわたし好みの、レトロで落ち着いた雰囲気のお店なので、ほとんど自然に、吸い込まれるように入ってしまった。

「喫茶ルオー」。すごく、いい。居心地が良すぎる。店内には、政治について議論を交わす学生や、傍らに本を積み上げ、ひとり黙々とパソコンに向かう女性など。
こういう場所で、なにか頭に浮かぶ霧のような文章を、どうにかつかまえて、クリーム色の小さなノートに、先がすこし丸くなった鉛筆で書きつらねてみたい。ときどき窓の外を見て、コーヒーをひとくちすすって、そしてまたノートに目をおとす。かすかに鳩の鳴き声が聞こえる、春に近づいたある日を、過ごしてみたい。

実際はただ、スマホでドラクエウォークやってただけなんだけれども。

ほくほくな気分をさらにほくほくさせて、東大のキャンパス内を歩いた。

赤門!
正門からキャンパス内へ
重厚で立派な建物
安田講堂

そういえば、大学生のわたしはいつもぼっちでキャンパスを歩いていたという記憶が、じわじわとよみがえってきた。